先行き不透明な公的年金の運用を目の当たりにして、老後に定期収入を得る方法を模索している人も多いのではないでしょうか。
不動産投資は年金対策の一つとして挙げられることも多く、セールストークの中にも盛り込まれています。
果たして、不動産投資は本当に老後資金のサポートとなるのでしょうか。
本記事では不動産投資と年金対策をテーマとして、詳細を説明しています。資産運用を検討している人は、ぜひ記事内容をご確認ください。
不動産投資は年金対策にはならない?
不動産投資の年金対策について、不動産投資の特徴や個人年金との比較を通じて、どのように提起しているのか、詳細を説明します。
そもそも不動産投資とは
不動産投資とは、不動産を購入し、賃貸物件として貸し出して家賃収入を得る投資です。
収益モデルは、家賃収入によるインカムゲインと物件の売却によるキャピタルゲインがありますが、年金対策として考える場合はインカムゲインを収益モデルとします。
不動産投資のリスクとメリットは次のとおりです。
リスク | 空室リスク、不動産価格変動リスク、管理リスク |
メリット | 副収入を得られる、資産形成につながる、節税効果がある、インフレに強い |
不動産投資にて対象となる運用方法を一覧表にまとめました。
特徴 | 初期費用 | |
---|---|---|
ワンルームマンション投資 | 比較的初期費用が少なく、始めやすい | 500万円~1,000万円程度 |
アパート投資 | ワンルームマンション投資よりも初期費用がかかる | 1,000万円~3,000万円程度 |
戸建て投資 | 初期費用が最もかかる | 3,000万円~5,000万円程度 |
クラウドファンディング | 少額から不動産投資に参加できる | 1万円~100万円程度 |
基本的なメリットとデメリットもしっかりと認識しておきましょう。
不動産投資によって得られる主なメリットは次のとおりです。
副収入を得られる
不動産から定期的な家賃収入を得ることで、毎月の収入を増やすことができます。
資産形成につながる
不動産は株などに比べて資産価値の下落が緩やかなので、長期資産形成の見通しが立ちやすいです。
節税効果がある
不動産投資は一定の条件を満たすと、所得税や住民税の減税を受けることができます。
インフレに強い
不動産は一般的にインフレ時に価値が上がりやすい傾向があるため、資産の目減りを防ぐ効果が期待できます。
注意しておくべき主なデメリットは次のとおりです。
初期費用がかかる
不動産の購入には、物件価格のほかにも、諸費用がかかります。
空室リスクがある
入居者が見つからなければ、家賃収入が得られません。
不動産価格変動リスクがある
不動産価格が下落すると売却価格が下がるため、最終的に損失が発生する可能性があります。
管理や修繕が必要な場合がある
空室対策や入居者からのクレーム対応、設備の修繕などが必要になる場合があります。
不動産投資の全体的な概要を把握した上で、個人年金保険との違いを考えてみましょう。
個人年金保険との違い
保険には、保障機能や万が一の備えとして貯蓄機能を持つ商品があります。不動産投資とは、基本的な商品構造こそ違いますが、実は似ている部分もあり、保険の代わりとして年金対策にとりあげられることもよくあります。
個人年金保険と不動産投資の商品性の違いを比較してみましょう。
不動産投資 | 個人年金保険 | |
---|---|---|
目的 | 資産形成や年金対策 | 老後の生活資金の確保 |
仕組み | 不動産を購入し、家賃収入を得る | 保険料を払い込み、年金を受給する |
リスク | 空室リスク、不動産価格変動リスクなど | 運用商品の選択リスク、金利リスクなど |
リターン | 家賃収入、売却益など | 年金受給額 |
期間 | 長期的な運用が必要 | 10年以上の積み立てが必要 |
手続き | 不動産の購入や管理が必要 | 保険会社との契約が必要 |
節税効果 | 不動産所得や譲渡所得の控除など | 個人年金保険の保険料控除など |
不動産投資と個人年金保険の違いは、次の3点に集約されます。
目的
不動産投資の主な目的は家賃収入による資産形成と老後の生活費の確保ですが、個人年金保険は老後の生活費の確保に特化した商品性です。
仕組み
不動産投資は不動産を購入し、家賃収入を得るのに対し、個人年金保険は保険料を払い込み、年金を受給します。
リスク
不動産投資は空室リスク、不動産価格変動リスクなどがある一方、個人年金保険は運用商品の選択リスク、金利リスクなどがあります。
個人年金保険は払い込んだ保険料を大きく超える収益を狙うには適していませんが、リスクをおさえつつ老後の生活資金を準備するための方法に向いています。
年金対策に不動産投資が選ばれる理由
年金対策としてなぜ不動産投資が選ばれるのでしょうか。その理由を3つのポイントにて説明します。
年金制度への不安 | 老後2,000万円問題
将来の年金制度への不安は、多くの現役世代がもつ共通認識ではないでしょうか。現在、将来の年金制度への不安が高まっている大きな要因は、次の2点です。
- 少子高齢化による人口構造の変化
- 経済成長の停滞
日本の人口は少子高齢化により、今後も減少していくことが予想されています。その結果、年金制度の基礎となる保険料の受給者(被保険者)が減少し、支払い者(加入者)が相対的に増加することになります。
現役世代が老後世代を支える現在の年金制度では、アンバランスさは大きくなるばかりです。
また、長きにわたる経済成長の停滞も見逃せない事実です。経済成長が停滞すると、年金制度の財源である積立金の運用収益が減少し、年金の給付水準が低下する可能性があります。
「このままでは年金制度が破綻して、年金そのものがもらえなくなるのでは?」
「そうでなくとも年金の給付水準が大きく低下するのではないか」
「年金だけで生活するのが難しくなるのではないか」
現状の年金制度は、以上のような不安な気持ちを生み出しているのも事実です。
不動産投資が注目される背景には、先行き不安な公的年金をサポートする理由もあります。
長期的な収入が期待できる
不動産投資は家賃収入を目的とするインカムゲインを収益の柱にすると、継続的な家賃収入を見込むことができます。前述のとおり、公的年金の現状を踏まえて、長期的な収入を期待して不動産投資に興味を持つ人は増え続けています。
安定した収益を実現するためには、土台となる仕組みづくりがとても重要です。不動産運用にて長期的収入を得るために抑えておきたいポイントは、次のとおりです。
- 物件や立地の選定
- 入居者の確保
- 適切な管理
物件や立地の選定はとても重要です。不動産投資が成功するかは、この2つにかかっているといっても過言ではありません。どちらかというと立地をやや優先したほうが、後の入居者確保が有利に進められます。立地が良く、築年数が新しければ暫くの間は、継続的な家賃収入が期待できます。
入居書の管理や物件管理は、特別な事情がなければ不動産会社へ任せるのが一般的です。よく管理してくれて、入居者募集の営業も頻繁に行ってくれる会社を選びましょう。
不動産投資の定期収入を力強くサポートするための方法を別途紹介します。
- 複数物件の購入
- 物件のリフォームやリノベーション
予算との相談になりますが、複数物件を運営できるとリスク分散につながります。ただし、良い物件でないと、売るに売れない不良債権となりますので注意が必要です。
かなりの好立地でもなければ、物件は築年数が増えるごとに空室リスクは高まります。築年数による空室リスクを防ぐには、リフォームやリノベーションが大事です。資産価値も上がりますので、ある程度古くなった物件には、一度手を入れたいところです。
自己資金が少なくても始められる
不動産投資は、基本的に物件価格の2割〜3割程度の自己資金が必要です。最近では、少ない自己資金からスタートできる方法も増えつつあり、サラリーマンでも不動産オーナーになる夢が実現できるようになっています。
少ない自己資金で始められる不動産投資の種類の一つにワンルームマンション投資があります。
ワンルームマンション投資は、比較的初期費用が少なく始められる不動産投資です。物件価格が1,000万円~2,000万円程度の物件であれば、自己資金500万円程度から始めることができます。
金融機関次第では、さらに少ない頭金で借り入れできるケースもありますが、高金利になりがちなので注意が必要です。
投資用不動産クラウドファンディングも、少ない自己資金で不動産投資ができる方法の一つです。直接不動産に投資する方法とは異なり、不動産投資会社へ資金を出資する方法です。
集まった資金をもとに不動産投資会社が運用を行い、出資金に応じて収益を分配します。1万円〜100万円程度から始められるケースが多く、ワンルームマンション投資よりも初期費用がかかりません。
初期費用が少ないと、毎月の返済金額が多くなる、もしくは返済期間が長引くデメリットがあります。空室リスクによってローン返済が滞る可能性が高まるため、物件価格と自己資金のバランスはよく考えるようにしましょう。
不動産投資の始め方 | 初心者が購入すべき物件
初心者が不動産投資を始めるにあたって、初期費用やリスク、管理などの観点から考えると、もっとも適している物件はワンルームマンションではないでしょうか。
ワンルームマンション投資が不動産投資の初心者に向けている理由を説明します。
少ない初期費用から始められる
ワンルームマンション投資は、一棟マンションやアパート、ファミリー向けのマンションと比較すると初期費用少なく購入することができます。自己資金が少なくとも始められるため、万が一不動産投資が頓挫した時でも、損害が少ない内に手仕舞いできる点も見逃せないメリットです。
複数所有によるリスク分散ができる
区分所有マンションは、色々な場所に分散して投資できるため、リスクを分散しやすいメリットもあります。一棟投資の場合は、なんらかの要因でエリアのニーズが低下すると物件全体の空室リスクが高まってしまいますが、区分所有マンションの場合、各エリアに分散投資することで、空室リスクを分散できます。
修繕費がおさえられる
一棟所有の場合、外壁や内装、また受水槽や排水管といった共有設備の修繕費がかかります。ランニングコストとしての修繕費は、一棟所有となると年々大きくなるばかりです。
区分所有マンションの場合、管理組合を通じて修繕費用を積み立てられ、修繕にあてられます。共有部の修繕費用については、一棟所有よりも少なく済みます。
室内の内装や設備の交換などは、オーナーの負担になりますが、ワンルームマンションの広さであれば、ファミリー向けの物件よりも大きな負担にはならないでしょう。
良い物件であれば売却しやすい
不動産は株などに比べて流動性が低いため、売却が成立するまでにそれなりの時間がかかります。成立までに平均して数ヶ月程度かかり、最悪の場合、いつまでたっても買い手が見つからない場合もあります。
ワンルームマンションは不動産物件の中では、比較的価格が安く、需要が高いため売却が成立しやすい傾向があります。明確な出口戦略が立てやすいのも、ワンルーム投資のメリットです。
売却が成立しやすい前提条件として、好立地や築浅など、それなりの優良物件でなければいけません。物件を選ぶ段階で出口戦略のことも考えて、よい物件にのみ投資するようにしましょう。
不動産投資を年金対策にする際の注意点
年金対策として不動産投資を検討する場合、注意すべき点があります。
年金対策に不動産投資をする際、注意したい点を4つのポイントにて解説します。
年金対策だけに捉われた不動産投資は危険
老後の心配が尽きない人にとって、安定的な収入源となる不動産投資は魅力的にうつるでしょう。低リスクな物件を探して適切な賃貸経営が運用できれば、多くのメリットを享受できます。
しかし、不動産投資はリスクが伴います。年金不安のテーマはセールストークの内容にも盛り込まれていますが、不安を煽られて安易に決断しないよう注意しましょう。
考えられるリスクを想定し、出口戦略まで描くことができた後に決断するくらいの慎重さは欲しいところです。
修繕費の出費も考慮しておく
不動産の築年数次第では、大規模修繕の可能性も考えておく必要があります。旧耐震基準に相当する物件は、耐震の改修も必要になるため、多額の出費となる可能性もあります。
価格を重視して物件を選ぶと、後々出費がかさむケースがあるため、注意が必要です。
老後も年金代わりに長く賃貸経営を継続する場合、大規模修繕は避けては通れない道です。マネープランをたてる時は、修繕費を念頭においておきましょう。
ローンの完済後は家賃が下がっている可能性も
現役世代の間に買った投資用物件を老後も引き続き運用する場合、家賃の下落は想定しておかなければいけません。
長期ローン完済後の物件は築古物件となるため、入居者を募るために家賃を下げざるを得なくなります。家賃は下がる一方、傷みが出始める物件の修繕費はかさみはじめます。
年金対策として物件を購入する場合、将来どの程度資産価値が下落するのか、という点まで考慮しておく必要があります。
複数の不動産業者から検討する
不動産投資の成功には、良い不動産会社選びが欠かせません。充分な実績を持ち、顧客目線での案内ができる会社を選びましょう。
良い不動産会社を選ぶときのチェックポイントは次の3点です。
- 資産状況に見合った提案をしてくれる
- 不動産投資のリスクを分かりやすく説明してくれる
- 出口戦略の提案もしてくれる
個人の資産状況を勘案せずに勝手な提案をする不動産会社は信用できません。メリットばかり説明して、肝心のリスクをわかりやすく説明しない会社も同様です。
物件を探す前の段階で不動産会社の対応を見極めて、付き合う会社を選ぶようにしましょう。
年金対策が目的の不動産投資で失敗しないためのポイント
不動産投資を始めるにあたってこれだけは抑えておきたい、というポイントを3点、紹介します。
経費を考慮した収支プランをたてる
不動産投資では、家賃収入だけでなく経費を考慮した収支プランを考える必要があります。修繕費や固定資産税など、経費支出をシミュレーションに組み込むようにしましょう。
年金対策として長期運用を考える場合、先述のとおり修繕費のシミュレーションが必要です。
固定資産税は、税率や物件評価額の変動を考慮した予測を行います。
物件周辺の環境変化を想定する
物件周辺の環境変化は、マンションの運営に大きな影響を与えます。現在栄えているエリアでも、企業の撤退などによって経済が衰退し、商業施設が少なくなる可能性があります。
住む人が少なくなれば、学校の統廃合まで進んでしまうかもしれません。
未来のことは誰にもわかりませんが、物件を買うときは、考えられる最悪のケースをシミュレーションしたうえで検討すると良いでしょう。
金利の変動を想定した返済計画
ローンを組むことが多い不動産投資では、金利の上昇に備えた返済計画の立案が大切です。現在、金利は最低水準で推移しているため、今後上昇する可能性は大いに考えられます。
返済能力を超えた借入は、金利上昇の際に支払いが困難になる可能性があります。金利の上昇を視野に入れた無理のない返済計画をたてるようにしましょう。
不動産投資を年金対策にする際によくある質問
老後の年金対策のために不動産投資を検討するにあたって、多くの人が疑問に感じるポイントを3点、ピックアップしました。
不動産収入があると年金は減りますか?
不動産収入によって、年金が減ることはありません。不動産収入は、不労所得に分類されるため、在職老齢年金の対象とはならないためです。
在職老齢年金とは、60歳以上65歳未満の人で、厚生年金に加入しながら働いていて、給与所得が一定額以上ある場合に、年金が減額される制度です。
不動産収入は給与所得に含まれないため、在職老齢年金の対象にはなりません。
ただし、不動産収入が一定額以上ある場合、確定申告が必要になることがあります。
確定申告をすると、所得税や住民税の課税対象となるため、その分、年金の天引き額が増えて年金の受取額が減る可能性があります。
老後資金のために不動産投資をするメリットは?
老後対策のための不動産投資には、主に次の3つのメリットが考えられます。
安定した収入源を確保できる
不動産投資は、家賃収入を得ることで安定した収入源になります。家賃収入は、物件の立地や築年数、間取りなどによって変動しますが、一般的にインフレに強いため、老後資金の確保に役立ちます。
資産形成につながる
不動産投資は、資産形成にもつながります。不動産は、所有しているだけで資産価値が下がりにくいため、老後の生活費の備えとして活用できます。
相続対策になる
不動産は、相続対策にも活用できます。不動産を所有していると、相続税の課税対象となりますが、一定の要件を満たすと、相続税の減税を受けることができます。
メリットだけでなく、リスクもよく確認した上で不動産投資を検討しましょう。
不動産投資のデメリットや注意点は?
老後資金のために不動産投資をするデメリットは、主に次の3つが挙げられます。
初期費用がかかる
不動産投資には、初期費用として、物件の購入費用や諸費用がかかります。物件の価格は、立地や築年数、間取りなどによって大きく異なるため、初期費用も大きく異なります。
ローンの返済負担がある
不動産投資では、物件の購入費用をローンを利用して支払うケースが多いです。ローンの返済負担は、物件価格やローンの借入額、金利によって異なります。
空室リスクがある
空室期間が長引くと、家賃収入が減少し、ローン返済が苦しくなる可能性もあります。空室リスクを抑えるためには、物件選びや入居者管理が重要です。
不動産投資には、事前にあらゆる事態を想定したシミュレーションを入念に行い、収益が見込める場合にのみ運用を検討する、といった慎重さが求められます。
まとめ
年金対策と不動産投資は相性がよく、メリットや活用方法としてよく話題にあがるテーマです。
老後に定期収入が見込めると心持ちも軽くなるため、多くの人が注目しています。
一方、定期収入のメリットばかりに目を奪われてしまうと、リスクや気をつけるべき注意点を見逃してしまいます。
不動産投資を考えるときは、空室リスクや出口戦略など、綿密なシミュレーションをもとに慎重に検討しましょう。